この照らす日月の下は……
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「そういえば、昨日の課題……終わったか?」
雰囲気を変えようとしたのか。トールがこう問いかけてくる。
「終わったよ」
簡単だったよ、とキラは即座に言い返す。
「本当?」
「うん。どうして?」
「……ちょっとわからないところがあって」
キラの言葉にミリアリアがすがるような視線を向けてくる。
「僕にわかるところならば説明するけど」
そう口にした瞬間だ。
「キラ。『僕』じゃなくて『私』でしょう?」
言葉とともに背中に重みがかかる。
「フレイ」
「キラは女の子なんだから、言葉遣いもちゃんとしないと」
そう言いながら彼女の手がキラの胸へと回った。そしてそれなりに存在感のある膨らみをもんでくれる。
「ちょっと、フレイ! それはまずい」
トールが視線をそらしながら叫ぶようにそう言った。
「ちょっとした挨拶でしょう? ねぇ」
「女の同士なら、まぁ、やるわね」
男子が見ていないところでなら、とミリアリアも続ける。
「ここに俺もいるんですが……」
「キラに不埒なことをしようなんて考えたらミリィの鉄槌が落ちるでしょ?」
楽しげにフレイが言う。
「彼女の尻に敷かれている人間は男の中に入らないって、おばあさまが言っていたもの」
何という暴言。心の中でそうつぶやいたのはトールだけではないだろう。もちろん、キラ自身そうだ。
「そうなんですか」
あまりのことにトールもこういうしかないらしい。
「まぁ、そんなこと考えていた時点でふるけどね」
「怖いこと言わないで、ミリィ!」
それは嫌だ、と口にしながらミリアリアの腕に抱きつく。
「考えなきゃいいのよ、考えなきゃ」
フレイの言葉はまさしく真理だろう。
「ともかく、キラは言葉遣いをなんとかしてね」
「気をつけているんだけど……やっぱり十年近く使ってたから、無意識に出ちゃうんだよね」
ため息とともにそう言い返す。
「月にいたなら仕方がないけど……でも、頑張って直そう」
ね、と言ってくるフレイにキラは小さく首を縦に振ってみせる。
「と言うことで、今日は学校が終わってから皆でショッピング行きましょう。確か、西地区のブティックでセールをしているはずだから」
フレイの言葉の裏に『キラを着せ替え人形にして楽しみましょう』と聞こえてきたような気がするのは錯覚ではないだろう。
「いいわね、それ」
しかし、ミリィにまでこう言われてはどうしようもない。
「……ほどほどなところでお願いします。まだ、足を出すのは恥ずかしい……」
ミニスカートは無理だ。せめて膝丈にしてください、と本心からキラは告げる。
「わかっているわよ」
「残念だけど、試着だけにしておくわ」
そのあたりは、と二人はうなずいてくれた。彼女たちはそう言う点では嘘は言わないから大丈夫だろう。
それに家に帰っても一人なのだ。少しでも長い時間、誰かと一緒にいたいと思う。
「なら、付き合うよ」
だから、とキラは微笑みながらそう言った。